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浦和地方裁判所 昭和57年(行ウ)12号 判決

原告

長沼明

被告

志木市長

小山正敏

右両名訴訟代理人弁護士

新井修市

関口幸男

谷合光昭

主文

被告志木市長が株式会社ニューサンパレスに対し、別紙物件目録一記載の建物部分についてなした昭和六〇年四月一日付使用許可処分を取り消す。

原告の被告小山正敏に対する請求を棄却する。

訴訟費用は、原告に生じた分の四分の三と被告志木市長に生じた分を被告志木市長の負担とし、原告に生じたその余の分と被告小山正敏に生じた分を原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

原告

「一 (主位的請求)

主文第一項同旨

(予備的請求)

被告市長が、別紙物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)の使用収益を株式会社ニューサンパレス(以下「ニューサンパレス」という。)に委ね、その管理を怠っていることは、違法であることを確認する。

二 被告小山は、志木市(以下「市」という。)に対し、金一億四九六六万八三七七円及びこれに対する昭和五七年一〇月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三 訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに第二項につき、仮執行宣言

被告ら

「一 (本案前)

原告の被告市長に対する訴を却下する。

(本案)

原告の請求をいずれも棄却する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二  当事者の主張

原告

一  原告は、市の住民である。

(被告市長に対する主位的請求)

二  本件処分

1  被告市長は、ニューサンパレスに対し、昭和五五年四月一日付で、別紙物件目録一記載の建物部分(市が、昭和五三年三月二四日条例第七号(昭和五五年三月一九日条例第五号により改正されたもの)志木市民会館条例(以下「条例」という。)に基づいて設置した志木市民会館(二棟からなる。以下東側の棟を「ホール棟」という。)のうち、昭和五五年四月二九日に開館した、西側にある本件建物の一部、以下「本件許可部分」という。)につき、使用期間を翌年三月末日までとする、目的外使用許可処分をし、右処分を昭和五六年以降毎年四月一日付で同一の条件により更新している(以下、昭和五五年から昭和五九年までの間になされた処分を順次「第一次処分」ないし「第五次処分」、昭和六〇年四月一日付でなされた処分を「本件処分」、これらの各処分を併せて「本件各処分」という。)。

2  本件各処分は、特定の者に対し、公共用物の独占的使用権を設定する特許処分であるから、使用期間を一年とする定めは形式的なものであつて、許可条件を改訂する機会をもつためのものにすぎず、実質的には、相当期間存続する性格のものである。

三  違法性の一 地方自治法(以下「法」という。)二三八条の四第四項違反等

志木市民会館は、行政財産であり、行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度において、その使用を許可することができる(法二三八条の四第四項)が、行政財産の用途及び目的と同一の用途及び目的による使用許可処分は、本来の用途及び目的と競合してその実現を妨げ、当該行政財産についての管理権限を付与したことと同じことになるから、法律上特に根拠がない限り許されず、行政財産の目的外使用許可処分は、当該財産本来の用途及び目的とは異なる用途及び目的のために、例外的に、かつ、必要最小限度においてのみなし得るものであるところ、以下に述べるとおり、本件建物の用途及び目的は、結婚の挙式及び披露宴の事業であり、本件各処分は、ニューサンパレスにこの用途及び目的そのものを行わせるものであるから、法二三八条の四第四項に反し、違法である。

1  本件建物の用途及び目的

(一) 本件建物は、その構造及び設備上、当初から結婚の挙式及び披露宴の事業に専用されるよう設計建設され、本件各処分の対象たる写場、美粧着付室、パントリー、厨房及び貸衣裳室と対象外の部分のうち、式場、ロビーはいずれも結婚の挙式及び披露宴の事業には欠かせないものであり、しかも、屋上庭園は式場からの眺望のため造園され、会議室は、建前上は市民の集会用に開放しているものの、実際は結婚披露宴を優先して、結婚披露宴室、新郎新婦及び親族控室として使用させる部屋として設けられており、本件建物は一体として、結婚の挙式及び披露宴の事業を営むことが予定されたものというべきであるから、本件建物の用途及び目的は、結婚の挙式及び披露宴の事業であつて、単なる場所の提供ではない。

(二) 公の施設が、サービス提供施設と場所提供施設とのいずれの性格を有するかは、設置条例の用途及び目的事項、当該施設の種別、具体的構造に照らし、社会通念に基づいて判断されなければならず、当該施設の公共性の強弱とは直接関係がない。

2  ニューサンパレスの使用形態

本件許可部分は、形式的には本件建物の一部であるが、結婚の挙式及び披露宴の事業に必要な部分をすべて含み、実質的にはニューサンパレスが本件建物全体を使用収益しており、この使用形態は当初から予定されていたものである。

(一) すなわち、ニューサンパレスは、一般的な結婚式場と同様のサービスの提供をする前提で、本件各処分を受け、実際にも、ワンセットにされた結婚の挙式及び披露宴のメニューを利用方法として用意し、新聞の折り込み広告、電車内の広告によつて宣伝し、利用者はニューサンパレスに対して所定の手続をして料金を支払えば、あとは、ニューサンパレスが結婚の挙式及び披露宴一式を取り仕切るという一般の結婚式業者と全く同一の営業形態をとつており、被告市長は、式場、披露宴室等につき、形式的には利用申込者に対し使用許可を与えているが、実質的にはニューサンパレスが決定したとおりにその客に使用許可を与えているのであるから、ニューサンパレスに対し使用許可を与えているものということができ、ニューサンパレスは、志木市民会館の敷地にその名の表示板を掲げ、本件建物には垂れ幕を下げ、本件建物内の階段の一つに披露宴の引き出物を所狭しと置いて本件建物全体を利用しているのであつて、自主的に結婚式を行う利用者が使用許可を受け、ニューサンパレスから写真撮影、美粧着付、料理の仕出しの個々的サービスを受けているのではない。

(二) また、ニューサンパレスは、営業品目、最低価格、宣伝についての報告義務等の点で市との細目協定に違反し、さらに、本件建物における宴会を宣伝し、「ニューサンパレス旅行友の会」を発足させ、同会員の特典を志木市民会館のホール及び結婚式場の催物にご招待またはご優待とし、株式会社佐藤写真(後記四)は七五三、成人式等の撮影までしており、市の認めた枠を超えて営業している。

3  仮に、本件建物の目的が、結婚の式場及び披露宴室の提供(場所の提供)であつたとしても、本件各処分は、法二三八条の四第四項の予定していないものであるから違法である。

すなわち、行政財産の目的外使用許可処分は、当該行政財産の用途及び目的とは異なる目的のために、本来の用途及び目的を妨げない限度で認められる例外的な制度であるから、本来の用途及び目的自体ではなくとも、その実現のために社会通念上必要不可欠な用途及び目的のためにする使用も、目的外使用とはいえないと解すべきであり、目的外使用許可処分によつて与えられた使用権は、使用権の消滅に補償を要しない(最高裁判所昭和四九年二月五日第三小法廷判決・民集二八巻一号一頁)、暫定的、臨時的性格のものであるところ、本件各処分は、その許可部分が、右場所の提供という設置目的と密接不可分な写場、美粧着付室、パントリー、厨房及び貸衣裳室であつて、これが使用権が消滅したならば、本件建物の現在の形式による運営が不可能になるほどのものである。

4  志木市民会館は、公の施設(法二四四条一項)であるから、公共団体又は公共的団体に対しては、その管理を委託することができる(法二四四条の二第三項)が、私人又は私企業による営利活動の対象とすることはできないものと解されるところ、営利法人たるニューサンパレスは、本件各処分を根拠として、市自身の行うべき管理行為たる結婚の挙式及び披露宴の申込の受付及び相談、利用者の実質的決定、利用料の徴収、挙式の執行、喫茶室の設置、披露宴の運営、貸衣裳、美粧着付、写真、引出物・花の供給等物的施設の提供及び人的サービスの提供を行つているから、本件各処分は、前記法二四四条の二第三項の脱法行為であり、また、公の施設利用の差別的取扱いを禁止した法二四四条二項、三項にも違反する。管理の委託について条例による定めが必要なところ(法二四四条の二第三項)、本件建物の管理委託に関しては、条例も存しない。

5  被告ら主張四2の「本件各処分の実質的観点」、被告ら主張六7の「すでに会議室及び結婚式場を有する公の施設を円滑に管理運営している浦和市及び朝霞市の例にならつたこと」は、便宜論に過ぎず、公の施設の事業を実質的に民間業者に委託することを適法とするものではなく、また、市民会館の運営につき、いかなる方針をとるかは、設置者の自由裁量であると主張するが、裁量は法令に反し得ない。

四  違法性の二 転貸

ニューサンパレスは、本件建物の三階の写場を株式会社佐藤写真、二階の美粧着付室を株式会社東京美容研究所、一階の美粧室及びショーケースを株式会社東上新生活互助会(以下「互助会」という。)、厨房を株式会社三徳フード及び華王飯店に転貸して、その売上の三割を受取つているが、これは、細目協定書及び行政財産使用許可書第六条一項に違反し、本件各処分は、違法である。

五  違法性の三 裁量権の濫用

1  目的外使用許可処分は、自由裁量とされているが、これも、決して無制約のものではない。

被告小山は、被告市長として後記2のとおり自己の関係する営利会社に対して、本件建物における結婚の挙式及び披露宴の事業を一括して、独占的に委託するため、本件各処分をしたものであり、本件各処分は、その処分の根拠法規の目的及び平等原則に違反し、私利私欲に基づいて、恣意的に行われたものであつて、裁量権を濫用した違法がある。

2  被告小山とニューサンパレスの関係

ニューサンパレスの実質的経営主体は、株式会社東上ブライダルセンター(以下「ブライダルセンター」という。)であり、ニューサンパレスは、本店所在地に看板を掲げることもなく、本店の電話番号を電話番号帳簿に記載せず、代表取締役自らが詳細を知らないと発言する、いわゆる「幽霊会社」であり、被告小山は、ニューサンパレスの発行済株式総数六万株のうち二万九〇〇〇株を所有する互助会の設立時その取締役、昭和五二年五月から昭和五四年一月五日まで監査役の地位にいた者であり、互助会は、ブライダルセンターを、その資本金一〇〇〇万円のうち、五〇〇万円(被告小山は一〇〇万円)出資して、「婚礼および貸衣裳に関する一切の業務を取り扱う部門」として設立し、被告小山は、昭和五四年六月二三日、同社の創立総会に出席し、監査役に就任しており、この三社はいずれも同一場所に本店をもち、その業務は密接に絡み合い、その役員の大半は被告小山の姻族が就任している。

3  被告小山の不正な動機

互助会は、昭和五四年当時、専属の結婚式場を有していなかつたところ、被告小山は、本件建物建設のめどのたつた同年一月、本件建物における結婚の挙式及び披露宴の事業を互助会に担当させることを決め、自己は互助会の監査役を辞任した。

本件建物の建設計画当時、すでに市内に民間の結婚式場が存在し、市に隣接する浦和市、朝霞市にも結婚式場が存在し、市として結婚式場を建設する必要性はなく、被告小山は、私利私欲により、結婚式場たる本件建物を建設したものであり、互助会に本件建物において、結婚の挙式及び披露宴の事業を行なわせようとして、株式会社サンパレス(以下「サンパレス」という。)を設立し、昭和五四年八月二日、市議会の全員協議会において本件建物で結婚の挙式及び披露宴の事業を担当する業者の選定に関し、サンパレスが適当である旨発言した上、同月二七日志木市商工会に担当業者の推薦を依頼し、被告小山の意を受けた市商工会は、サンパレス(当時、ニューサンパレスと商号変更)を推薦し、被告小山は、法規上委託契約を締結できないため、目的外使用許可処分という方法をとり、その所期の目的を果たしたのであり、互助会は、本件建物を「当社専属結婚式場 志木市民会館結婚式場ニューサンパレス」として宣伝している。

4  被告ら主張六4の業者選定の基本方針は、地元優先の名のもとに近隣の結婚式場業者を、一括運営の名のもとに市内の個別業者をそれぞれ排除して、互助会関係の業者が選定されるように考えだされたものに過ぎない。

六  違法性の四 法二三四条違反

1  目的外使用許可処分の相手方選択について、明文の規定はないが、普通財産の管理については厳重な規制がされ(法二三四条一項、二項、同法施行令一六七条ないし同条の一六)、管理の運用の公正が図られており、本件各処分のように長期間継続されることが予想される場合は、この普通財産の管理についての規定を類推適用すべきであり、特段合理的な理由もなく、同一の業者に対し、許可の更新を重ねる取扱いは、裁量権の濫用であり違法である。

2  また、本件各処分は、実質的には結婚の挙式及び披露宴の事業にかかわる委託契約であつて、随意契約の方法で締結されているところ、随意契約が許される要件(右施行令一六七条の二)のいずれにも該当せず、市商工会の前記推薦は、法的根拠がなく、本件各処分の違法性を小さく見せかけるためになされたものに過ぎない。

七  訴の適法性

1  公物ないしは公の施設たる行政財産には、公物管理と財産管理の両側面があるが、目的物に排他的権利を設定する特許処分は、その物の財産的価値に著しい影響を与えるから、原則として住民訴訟の対象となる財務会計行為と解するべきであり、法二三八条の四第四項に基づく行政財産の目的外使用許可処分は財産許可性が強く、また本件各処分は、ニューサンパレスに対する排他的半永久的権利の設定であつて、特許処分の性質を有し、志木市民会館の財産的価値に重大な影響を及ぼす行為であるから、財務会計上の行為に該当する。

また、本件各処分の実体は市とニューサンパレスとの間に締結された志木市民会館における結婚の挙式及び披露宴の事業の管理委託契約にほかならず、本件各処分と右契約は、表裏一体であるから、この点からも、本件各処分は財務会計行為である。

2  監査請求前置

原告は、昭和五七年七月二日付で、市監査委員に対し、被告市長は、昭和五五年四月一日付で、翌年三月末日まで、本件許可部分につきニューサンパレスに目的外使用許可処分をし、結婚の挙式及び披露宴の事業を行なわせ、右処分を昭和五六年に更新、昭和五七年に再更新しているが、本件建物の目的は、結婚の挙式及び披露宴の事業そのものであるから、目的外使用許可処分をすることは違法であり、また、法二四四条の二第三項を潜脱する目的でなされた行為であるとして、被告市長に対し、目的外使用許可処分の取消、原状回復、被告小山に対し、市の被つた損害の賠償、ニューサンパレス及び転借人に対し、原状回復及び市の被つた損害の賠償を求める旨の勧告を求めて、監査請求(以下「本件監査請求」という。)をした。

市監査委員は、本件建物の目的は、市民の文化的向上と福祉の増進を図ること、施設の提供であるから、目的外使用許可処分をして、施設の有効利用が図られるならば、その処分は妥当であり、また、市に損害を与えたとも認められないとして、昭和五七年八月二八日本件監査請求を棄却した。

(被告市長に対する予備的請求について)

八1  仮に、本件各処分が住民訴訟の対象たる財務会計行為に当たらないとしても、次のとおり、被告市長は市の財産たる本件建物の管理を怠つている。

(一) 本件建物は、結婚の挙式及び披露宴の事業をその用途及び目的とするものであるにもかかわらず、ニューサンパレスが右事業をその責任と計算において行なつており、このニューサンパレスの管理は前記三のとおり、違法であるから、本件建物の適正な財産管理が妨げられているといえ、これは、財産管理の違法な懈怠である。

(二) また、仮に、被告ら主張のとおり、本件建物の用途が、場所の提供に留まるものであつたとしても、被告市長がニューサンパレスが受付けた客だけに対し、式場及び披露宴室の使用許可をするのは、使用許可という管理を怠る行為といわなければならない。

(三) ニューサンパレスは、前記三2(二)のとおり、許された営業の枠を超え、また、前記四のとおり、株式会社佐藤写真等に本件許可部分の一部分を各転貸しており、これらの転貸は取消事由にあたるから、被告市長は本件処分を取消し、本件許可部分の明渡を命じなければならないのに、これを行わないことは、管理を怠る事実に該当する。

2  訴の適法性

(一) 被告市長は、積極的行為が存する場合には、その行為をとらえて問題とすべきであるとするが、積極的行為について、法二四二条の二第一項二号または四号による請求ができない場合には同項三号による請求は許されると解すべきである。本件における積極的行為は、本件各処分であるが、被告市長の主張によれば、右は財務会計行為には当たらず、また、同項四号によるニューサンパレスに対する原状回復請求も、本件各処分の公定力によりできないから、同項三号による請求の許される場合に該当する。

(二) 監査請求前置

一般に普通地方公共団体の財務会計活動の実態は、部外者たる住民にとつて、不透明であるから、住民訴訟制度を実効あらしめるためには、住民訴訟とその訴訟要件としての住民監査請求の同一性の意義を形式的かつ厳格に解するべきではなく、住民監査請求の段階では、財務会計上の非違に関する疑惑を可能な限り、特定すれば足り、事実の具体的内容を厳格に摘示し、執られるべき措置内容を法律的に厳格に提示することまでは要求されないと解すべきである。

したがつて、本件予備的請求についても、前記七2の監査請求前置の要件を充している。

よつて、原告は被告市長に対し、主位的に本件処分の取消を、予備的に本件建物の管理を怠る事実の違法確認を求める。

(被告小山に対する請求)

九  被告小山は、本件各処分時、被告市長の地位にあり、前記二ないし六のとおり違法な本件各処分をした。

一〇  損害額

1  主位的主張

(一) 前記三のとおり、本件各処分は、形式的には、本件建物の一部についてなされたものとはいえ、本件許可部分は、結婚の挙式及び披露宴の事業の観点からは、本件建物の主要部分をすべて含み、実質的には、本件建物全体を使用収益し得る仕組みとなつており、これは、被告市長が、ニューサンパレスに対して、本件建物全体を普通財産と同様に貸し付けていることになる(事実上の公用廃止)から、市は、本件各処分により、市が本件建物及びその敷地部分を普通財産として運用した場合の収益(他に貸付けることによつて得べかりし賃貸料)と、ニューサンパレスが、市に対して、本件許可部分の使用料として支払つている行政財産使用料との差額相当額の損害を被つた。

(1) 建物貸付料年額は、埼玉県の基準(市には普通財産の貸付料算定基準がない。)によると、建物評価額の一割に当該地貸付料年額と損害保険料年額を加えたもの(埼玉県普通財産貸付料算定基準による数式は、

「土地貸付料年額=土地評価額×4.2÷100

建物貸付料年額=建物評価額×0.1+当該土地貸付料年額+損害保険料年額」)

であつて、本件建物の昭和五五年度及び昭和五六年度の貸付料の合計は、次のとおり、一億〇七五九万九二一九円である。

昭和五五年度

5億円×0.1+36900円/m2×2371.46m2×4.2÷100+23万9041円×2371.46m2÷(2580.88m2+2371.46m2)=5378万9788円

昭和五六年度

5億円×0.1+36900円/m2×2371.46m2×4.2÷100+28万0049円×2371.46m2÷(2580.88m2+2371.46m2)=5380万9431円

合計 5378万9780円+5380万9431円=1億0759万9219円

建物評価額は本件建物の建設工事費五億円として計算し、本件建物の敷地の固定資産税評価額は一平方メートル当たり三万六九〇〇円、損害保険料は、昭和五五年度二三万九〇四一円、昭和五六年度二八万〇〇四九円、そして、志木市民会館ホール棟の延べ面積は、二五八〇・八八平方メートル、本件建物部分の延べ面積は、二三七一・四六平方メートルであるから、割合計算とした。

(2) ニューサンパレスは、市に対して、本件許可部分の使用料として昭和五五年度に七六三万二五三〇円、昭和五六年度に七六五万五六八八円の計一五二八万八二一八円を支払つた。

(3) 右(1)の一億〇七五九万九二一九円から右(2)の一五二八万八二一八円を減じた九二三一万一〇〇一円は、第一次(昭和五五年度)及び第二次(昭和五六年度)各処分により市の被つた損害の一つである。

(二) 市は志木市民会館の管理運営費として、昭和五五年度及び昭和五六年度に左記〈編注・次頁左表〉のとおり支出し、本件建物相当分(一〇〇〇分の四七九)は合計五七三五万七三七六円であるが、この本件建物相当分の支出はもつぱらニューサンパレスの結婚の挙式及び披露宴の事業のために支出したものであるから、市は同額の損害を受けたというべきである。

昭和五五年度

昭和五六年度

電気料

一九六三万四三八六円

二〇三三万〇〇九一円

水道料

四二万九九五〇円

五二万七八〇〇円

下水道料

一六万六三九〇円

燃料費

一八九万六七〇六円

一八三万四一八〇円

修繕費

一二万二五〇〇円

五〇万八二五〇円

汲取料

一一五万六九〇〇円

委託料

三六五八万六四四〇円

三四七四万五四八八円

土地賃貸料

六一万六四四〇円

駐車場賃貸料

一四万四〇〇〇円

八四万四〇〇〇円

貸植木料

八万五三〇〇円

九万六〇〇〇円

合計

五九五一万五七〇四円

六〇二二万九〇九九円

(三) 以上のとおり、第一次及び第二次各処分により、市が被つた損害は、一億四九六六万八三七七円(九二三一万一〇〇一円に五七三五万七三七六円を加えた額)である。

2  予備的主張

ニューサンパレスは、本件建物における結婚の挙式及び披露宴の事業により、昭和五七年七月一日から昭和五八年六月三〇日まで、三三三万三二八五円、昭和五八年七月一日から昭和五九年六月三〇日まで、二〇二一万四八八四円の各利益を計上しており、右合計額二三五四万八一七〇円は、被告小山が、第三次ないし第五次各処分により、市に与えた損害の一部である。

よつて、原告は、市に代位して、被告小山に対して、主位的に一億四九六六万八三七七円、予備的に二三五四万八一七〇円、及びこれに対する訴状送達の翌日たる昭和五七年一〇月八日から支払済まで、民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める。

被告ら

(認否)

一  請求原因一の事実は認める。

二1  同二1の事実は認める(ただし、本件許可部分の面積合計は四六七平方メートルである。)。

2  同二2の事実のうち、本件各処分が特定の者に対し公共用物の独占的使用権を設定する特許処分であることは認め、その余の事実は否認し、その主張は争う。

三1  同三頭書の事実のうち、志木市民会館が行政財産であることは認め、本件建物の用途及び目的が結婚の挙式及び披露宴事業であること、本件各処分がニューサンパレスにこの用途及び目的そのものを行わせるものであることは否認し、目的外使用許可処分についての一般論は争わない(被告の主張は後述四)。

2  同三1(一)の事実のうち、写場、美粧着付室、更衣室、パントリー、厨房及び貸衣裳室が本件各処分の対象であること、屋上庭園が式場からの眺望のために造園されたこと(ただし、右眺望のためだけではない。)、会議室の使用は結婚披露宴が優先していることは認め、その余は否認し、その主張は争う。

3  同三1(二)の主張は争う(被告の主張は後述四)。

4  同三2頭書の事実は否認し、その主張は争う。同三2(一)の事実のうち、ニューサンパレスが本件建物全体を使用収益していること、その使用形態が当初から予定されたものであること、式場、披露宴室につきニューサンパレスに使用許可を与えていることは否認し、その主張は争う(被告の主張は後述四)。

同三2(二)の事実のうち、営業品目の点で、細目協定に反するものがあつたことは認める。

5  同三3の主張は争う。

6  同三4の事実のうち、志木市民会館が公の施設であること、ニューサンパレスが本件各処分を根拠として、結婚の挙式及び披露宴の申込の受付及び相談、挙式の執行、披露宴の運営、貸衣裳、美粧、着付、写真、引出物及び花の供給を行なつていることは認め、利用者の実質的決定、利用料の徴収を行なつていることは否認し、その主張は争う。

四  同四の事実は否認し、その主張は争う(被告の主張は後述五)。

五1  同五1の事実は否認し、その主張は争う(被告の主張は後述六)。

2  同五2の事実のうち、ニューサンパレスが代表取締役自らが詳細を知らないと発言するいわゆる「幽霊会社」であること、互助会、ブライダルセンター、ニューサンパレスの三社の業務が、密接に絡み合つていることは否認し、その余の事実は認める。

3  同五3の事実のうち、被告小山が昭和五四年一月互助会の監査役を辞任したこと、本件建物の建設計画当時、市内にすでに民間結婚式場が存在したこと、被告小山が昭和五四年八月二日、市議会の全員協議会において本件建物において結婚の挙式及び披露宴の事業を担当する業者の選定に関し、サンパレスが適当である旨発言し、同月二七日市商工会に担当業者の推薦を求めたことは認め、被告小山が互助会に担当させることを決め、私利私欲に基づき本件建物を建設したこと、市として結婚式場を建設する必要がなかつたこと、市商工会の推薦が被告小山の意を受けたものであること、被告小山が、法上委託契約を締結できないため、目的外使用許可処分という方法をとり、その所期の目的を果たしたことは否認する。

4  同五4の事実は否認する。

六  同六の主張は争う。

七  同七1の主張は争い、同2の事実は認める。

八1  同八1(一)の事実のうち、本件建物の用途及び目的の点は否認し、その主張は争う。

2  同八1(二)、(三)の事実は否認し、その主張は争う。

九  同九の事実は認める(ただし、本件各処分が違法なものであることは争う。被告小山の故意または過失については後述七)。

一〇  同一〇1・2の各主張は争う。

(本案前の主張)

一  被告市長に対する主位的請求について

1  本件処分は、施設の一部の使用権を認めるものにすぎず、財務会計行為ではない。原告はニューサンパレスの営業行為を問題とし、ニューサンパレスの営業の根拠となつている本件処分の取消を求めているが、仮に原告主張のとおり、市とニューサンパレスとの間に委託契約が存するのであれば、それを対象とすれば足りる。

2  住民訴訟の対象は、当該財産についての財産価値そのものの維持、保全などを直接の目的とするものであることを要し、本件においては、本件許可部分について、その財産的価値を減少する行為が問題となり得るのであつて、原告の問題とする結婚の挙式及び披露宴の事業という事実行為の運営を直営とするか、会館の管理を含めて公共的団体に委託するか、目的外使用許可処分の方式をとるかという問題は、裁量的行為であつて、住民訴訟の対象とならない。

二  被告市長に対する予備的請求について

1  法は、住民訴訟の対象を行為と怠る事実とに区別して規定しており、「怠る事実」は行為が存しない場合を想定するものであつて、積極的な行為が存する場合は、その行為をとらえて、それを問題とすれば足りる。本件においては、本件各処分が存在するから、その処分の取消し、もしくは変更しないことを行為から切り離して怠る事実として別途住民訴訟の対象とすることは許されない。

2  原告の怠る事実の違法確認請求は監査請求を経ず、また、出訴期間を徒過しているものである。

(本案について)

四  違法性の一について

1  本件建物の目的は、住民の文化的向上と福祉の増進を図ること、用途は物的施設(会議室等と結婚式場及び披露宴室)の提供(場所の提供)であつて、写真、美粧、貸衣裳、調理といつた特殊技術を要する人的サービスの提供を含まず、本件建物の主要部分は会議室である。

2  右人的サービスについては、人事管理、財政上の問題、市民サービス、結婚の挙式及び披露宴の事業の公共性の度合等の実質的観点から、市自ら行なうことはかえつて不適切と考え、この部分を第三者に担当させて、本件建物の設置目的を効果的に達成しようとしたものであり、具体的にどの程度までのサービスを提供するか(本件建物の目的をいかに定めるか)、どのような方法でサービスを提供するかは設置者たる当該普通地方公共団体の行政的裁量に属することであり、市は、写真、美粧、貸衣裳、調理等は公の施設としては必須のものではなく、場所の提供以上のことは、利用者の計画すべきことであると判断した。

そして、被告市長は、利用者の便宜を考え、本件建物の一部を右写真等の部屋として目的外使用許可処分(本件各処分)をし、補完的に志木市民会館の効用を高めたものであり、本件各処分は右目的及び用途に反しない。

3  住民(利用者)が志木市民会館を利用して結婚の挙式及び披露宴を行なう場合の市民、市、ニューサンパレスの法律的関係は左記のとおりであり、ニューサンパレスは、本件許可部分を利用し、写真、美粧、貸衣裳、料理の仕出し等の業務を行なつているにすぎず、披露宴室にニューサンパレスの従業員が料理を運び、サービス業務を行なつていても、それは、利用者である住民がニューサンパレスとの契約に基づき、ニューサンパレスの従業員を利用しているに過ぎず、ニューサンパレスが披露宴室を利用しているのではない。

(一) 市と住民との間では、市は住民に対し、式場及び披露宴室という場所を提供し、住民は市から使用許可を受けて式場、披露宴室、控室などを利用し、市に対し利用料を納める。

(二) 市とニューサンパレスの間では、写場、美粧着付室、厨房等の部屋として、本件建物の一部を目的外使用許可処分し、市は住民が本件建物を利用して挙式及び披露宴をする際の便宜を図る。

本件各処分は、行政処分としての処分といわば事実行為(写真、美粧、調理等)についての委託契約的なものが結び付いた複合的な内容を持つたものである。

(三) 住民とニューサンパレスとの間では、両者間で披露宴での料理、貸衣裳、引出物の供給などの売買もしくは準委任契約を結ぶ(ただし、当事者の全くの自由ではなく、市が細目協定書などにより基本的な事項について制約している。)。

4  ニューサンパレスの使用形態について

市とニューサンパレスとの間に目的外使用許可処分に対する認識の差があつたため、市の知らないうちにニューサンパレスの宣伝に、志木市民会館全体がニューサンパレスの施設であるかのごとき印象を与える部分があり、また、細目協定書に記載されていない一部の品目がパンフレットに記載され、利用者の便宜のためにニューサンパレスが会館利用の申込の代行をし、その結果本件建物そのものがニューサンパレスの施設であるかのような印象を与えてしまい、適当ではなかつたが、これは、結婚の挙式及び披露宴の事業について、ほとんど素人同然の地元商工業者が、市商工会を中心にして急遽ニューサンパレスを設立して、営業を始めたためであり、細目協定書の内容がほとんど守られ、利用者から喜ばれこそすれ、何らの苦情もない現状において、本件処分を取り消すべきほどの事由ではない。

5  目的外使用許可処分は、常に一時的、臨時的なものでなければならないわけではなく、その使用の原因、態様により様々であり、本件各処分が長期に渡ることが予想されるものであつたとしても、これら処分はいつでも取り消し得るもので、その適法性は影響されない。

6  市は、自ら本件建物の管理運営(利用者に対する施設の利用許可、不許可、取消、開館閉館、利用時間の規制、利用場所の制限、利用者に対する管理上の指示、利用料の徴収、利用条件の変更等)のすべてを行なつている。

また、本件建物の利用状態は、昭和五五年度は、会議室(披露宴を除く)六〇一件、式場二五三件、披露宴室二七五件、控室二六九件、昭和五六年度は、会議室(披露宴を除く)九三七件、式場四〇二件、披露宴室四三三件、控室四四一件であり、本件建物の設置目的は達成されている。

7  公の施設の管理委託

前記1のとおり、本件建物の目的は物的施設の提供であり、本件建物の管理運営は、市が自ら行なつているのであるから、本件建物の管理委託は必要がなく、また、管理を委託し得る公共団体は存在しない。

五  違法性の二について

ニューサンパレスは、急遽設立されたため、専門的技術及び知識を備えている者がおらず、写真、美粧、貸衣裳、調理等につき技能者の派遣を受けざるを得なかつたが、写真等は、それぞれニューサンパレスの一部門に過ぎず、これらの各部門で働く者は、ニューサンパレスの指示及び命令に従い、ニューサンパレスがその規律のもとに人事管理を行ない、給料を支給しているニューサンパレスの従業員であり、ニューサンパレスが事業資産である設備及び備品を有し、本件許可部分を使用しているのであるから、本件許可部分を転貸しているのではない。

六  違法性の三について

1  志木市民会館は、多目的の総合施設として建設予定されたものであり、結婚式場のみを用途として設置されたものではない。志木市内には、本件建物建設当時、式場として利用されていた建物が一棟あつたが、同建物は結婚式場としての体裁をなしていなかつたため、身近なところで手軽に結婚の挙式及び披露宴を行ない得るよう、また、研究会、各種サークル活動のための会議室として利用できるよう、市内に本件建物を建設する必要があつた。

2  被告小山は、市民から、市内で結婚式が挙げられる建物が欲しいという要望もあつたので市議会と相談しながら、市商工会の協力を得て、本件建物を建設したものであり、互助会のために造つたのではない。

3  被告小山は、互助会の監査役ではあつたが、その経営には関与していなかつたものであり、結婚の挙式及び披露宴の事業のうち、写真、美粧、料理などにつき、市内業者が中心となることを予想し、貸衣裳を扱つている互助会も関係を持つようになると、自己が名目的とはいえ、役員に就任しているのは好ましくないと考え、辞任したにすぎない。

4  被告市長は、本件各処分にかかる業者選定の基本方針として、①市内業者優先、②一括して業務を引き受けられる業者であることの二点を挙げた。①は地元の商工業の育成発展のためであり、②は利用者の便宜を考慮したものである。ニューサンパレスは、市内の多数の商工業者によつて組織された市商工会の会員の創意と出資によつて設立された市内業者であり、一括して業務を引き受けられる、被告市長の基本方針を充した業者であつた。

5  互助会は、市が市商工会に対し推薦を依頼し、市商工会が本件建物において結婚式業務を行なう会社の設立を検討していた際、婚姻数の減少、参加メンバーの経験不足、準備期間不足等の理由から、互助会が主体となることに危険を感じたため、右会社には参加しないことを決めていたところ、商工会から互助会の参加なくしては運営が難かしいと強く要請され、止むを得ず参加したのである。

6  前記のとおり、目的外使用許可処分というものについて、市とニューサンパレスとの間に認識のずれがあり、ニューサンパレスが市の意思に反していささか宣伝をしすぎた感があるが、それは市が意図したところではない。

7  ニューサンパレスは、目的外使用許可処分という手法を採用することを決定した後に設立(形式上はサンパレスの商号変更)されたものであり、写真、美粧、貸衣裳、調理等の専門的業務を行なう方法については、県、他市町の状況なども視察し、検討を加え、すでに会議室及び結婚式場を有する公の施設を円滑に管理運営している浦和市及び朝霞市の例にならい、目的外使用許可処分という形をとつたものである。

七  被告小山の故意過失について

被告小山は、目的外使用許可処分については、近隣市町及び県などの実例及び経済的合理性などを総合的に考え判断し、採用したものであり、被告小山に故意または重大な過失はなく、また、ニューサンパレスについても、市商工会などを通じて、推薦して貰い、決めたものであり、問題はない。

八  損害額について

1  本件建物につき、公用廃止がなされたとみるのは原告独自の見解であり、本件建物は、公の施設として市民の利用に供しているのであるから、これを普通財産と見ることはできない。

2  前記一のとおり、ニューサンパレスが使用しうるのは本件許可部分のみであつて、本件建物全体ではない。式場、披露宴会場、会議室は、住民が利用料を支払つて利用しているのであり、本件許可部分については、市は、条例で定められた額の使用料を徴収しており、市に損害はない。

3  ニューサンパレスの利益はその企業努力の結果であつて、利用客の増加による利益の増大と市の損害は関係がない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一原告が市の住民であることは、当事者間に争いがない。

(被告市長に対する主位的請求について)

二本件処分について

1  市が条例に基づいて設置した志木市民会館が、建築物としては、ホール棟と本件建物の二棟から構成され、被告市長が、ニューサンパレスに対し、昭和五五年四月一日付で、本件建物の一部分を使用期間を翌年三月末日までとして、目的外使用許可処分をし、昭和五六年以降毎年四月一日付で同一の条件により更新してきていることは、当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、第三次及び第四次各処分において許可書に記載された建物の部分は本件許可部分(別紙物件目録一記載の建物部分、合計四六八・四四平方メートル)であると認められるから、本件処分においても同様明示の許可部分は本件許可部分であるということができる。

2  〈証拠〉によれば、被告市長はニューサンパレスに対し、前後殆ど同一内容の本件各処分をなしていることが認められるが、本件各処分は、行政処分としてはそれぞれ別個の処分と解さざるを得ないところ、原告が、本件各処分を一体として考えて、その取消を求めていることは弁論の全趣旨から明らかであり、原告の意思は、現に効力のある処分の取消を求めることにあると解されるから、原告が本件訴訟において取消を求める処分は昭和六〇年四月一日付でなされた本件処分であると解釈すべきである。

三訴の適法性について

1  本件処分が財務会計行為かについて

志木市民会館が公の施設であることは当事者間に争いがなく、前記二1のとおり本件建物は志木市民会館の一部である。

公の施設の管理には、その本来の設置目的を達成するための見地からなされる行政上の管理とその財産的価値に着目して、これが維持、保存、運用のためなされる財産上の管理とが考えられ、後者についての行為又は怠る事実のみが住民訴訟の対象となるものというべきところ、一般に目的外使用許可処分は法上も明らかなとおり、本来の目的を達成するためのものではなく、その目的を妨げない限度で、いわば財産の運用としてなされるもので(法二二五条によれば、目的外使用許可処分をした場合には使用者から使用料を徴収できることになつている。)、後者の性格を有するものと解すべきであり、そして、これが運用において適正を欠けば、普通地方公共団体において、自らこれを自由に運用することを妨げられる等損害を被るおそれがあるから、目的外使用許可処分は、住民訴訟の対象となる財務会計行為というべきであり、本件処分についても、もとより同様である。

2  監査請求前置について

原告が昭和五七年七月二日付で、その主張のとおりの本件監査請求をしたことは、当事者間に争いがないところ、さきに述べたとおり、本件各処分は、行政処分としては、それぞれ別個の処分と解せられるけれども、その実体においては、第一次処分をもつて市がニューサンパレスに当該許可部分の目的外使用を許可し、第二次処分以後もその状態がそのまま継続しているのであるから、もとより本件監査請求は、その時期からして本件処分そのものを対象としているわけではないが、実質的に考えれば、第一次ないし第三次各処分のみでなく、その後になされた本件処分に至る本件各処分も当然その対象に含んでいて、改めて本件処分に対する監査請求をする必要がないとみるのが相当であるから、本件各処分も監査請求を経た行為として、適法に当裁判所の審理の対象となし得るものと解すべきである。

四違法性の一について

法二三八条の四第四項の定める「目的」は、当該行政財産の供用によつて達成しようとする抽象的な目的をいい、同項の定める「用途」は、当該行政財産の供用される具体的な態様をいうものと解されるところ、以下に説示するとおり、本件建物の目的は、市民の文化的向上と福祉の増進を図ること、用途は、結婚の挙式及び披露宴の事業並びに会議室の場所の提供である。

1  〈証拠〉によれば、志木市民会館のホール棟は、ホール及び楽屋等、本件建物は式場、披露宴室兼会議室等を有するところ、〈証拠〉によれば、条例は、

「(設置)

第一条 市民の文化的向上と福祉の増進を図るため、志木市民会館(以下「会館」という。)を志木市本町一丁目一一番五〇号に設置する。

(業務)

第二条 会館は、次に掲げる業務を行なう。

(1) ホール、楽屋、会議室、結婚式場、披露宴室、控室及び展示場並びに付属設備(以下「施設等」という。)の利用に関すること。

(2) 文化の資料展示に関すること。

(3) その他会館の設置目的を達成するために必要な事業に関すること。」

と定め、また、志木市民会館管理規則は、その第二条において庶務係の事務分掌の一つとして「会館の自主事業」を定めており、条例は文言上は、その目的については「市民の文化的向上と福祉の増進を図ること」、ホール棟の用途については「ホール等を利用する文化的自主公演事業並びにホール及び楽屋等の提供」、本件建物の用途については「結婚の挙式及び披露宴の事業並びに結婚の式場、披露宴室及び会議室等の場所の提供」と理解することができる(条例二条の解釈及び条例一八条別表第2については後述する。)。

2  〈証拠〉によれば、市作成の志木市民会館のパンフレットには、結婚式場・披露宴の頁に、ニューサンパレスの料理が配膳されたテーブル、ニューサンパレスによる神式の設備がされた結婚式場等の写真が掲載され、施設の説明として「最新の設備と一流のスタッフの心のこもつたサービスが祝福の宴を盛り上げます。新郎新婦の生いたちなどをたどるマルチスクリーン、エレクトーン演奏、キャンドルサービスなどもご希望に合わせて準備いたします。最も意義ふかい晴れの誓いの儀は、おごそかな雅楽の奏でられるなかで、荘厳にとり行なわれます。神前結婚式の他ご相談に応じてキリスト教式、家庭式、結婚式場もご用意いたします。尚、当館は近県にない式場から屋上庭園がのぞめられ、約四〇名様がご参列になれます。」と記載され、広報しき第一一六号(昭和五五年五月一日付)には、料理が配膳されたテーブル、ニューサンパレスによる神式の設備がされた結婚式場の写真が掲載されたことが認められ、以上の事実によれば、市の執行機関により、市民に対し、本件建物において結婚の挙式及び披露宴の事業が行なわれ、本件建物がそのための物的及び人的サービスを総合して行なう施設である旨紹介されているといいうる。

3  原告は、本件建物は、結婚の挙式及び披露宴に専用されるよう設計建築されている旨、被告らは、本件建物は、多目的の施設である旨主張するところ、〈証拠〉によれば、本件建物はホール棟とは独立した建物で、本件建物の主な部屋等としては、一階には、ロビー、喫茶室、厨房、披露宴室兼会議室、二階には、控室兼会議室二部屋、美粧室、披露宴室兼会議室三部屋、三階には、写場、式場、屋上庭園があり、その配置は、別紙図面のとおりであつて、一階ロビーの壁には、結婚披露にふさわしいよう鶴が描がかれていること、本件建物全体を通じ内装も結婚披露にふさわしいものであることが認められ、以上の事実によれば、本件建物は主として結婚式場関係施設として建築された建物であり、披露宴室及び控室を会議室としても使えるというにすぎないといえる。

4  ニューサンパレスの設立、経営等について

〈証拠〉によれば、次の事実が認められ、この認定を左右するに足る証拠はない。

(一)  志木市内の結婚式場に関係する業種の一部の業者(互助会、吉成美容室、谷合写真館)は、市に対し、本件建物建築の計画段階である昭和五四年二月に事業の参加を申し出たところ、一括して担当し得る業者が好ましい旨の指導を受けたので、互助会が中心となり、同年七月二日サンパレスをその目的の第一を結婚式場経営として設立したが、同社以外にも事業参加を希望する業者が存在したため、市の助役は、市商工会に対し、同年八月、一括して結婚式場の運営が可能な事業所の推薦を依頼し、市商工会は、事業参加を希望する業者を取りまとめ、ニューサンパレスとして推薦することとし、サンパレスは、同年一一月一四日、ニューサンパレスと商号変更の登記をし、同月二八日、ニューサンパレスの創立総会と称するものを開いた。

(二)  ニューサンパレスは、特別の失態のない限り、ほぼ同一条件で目的外使用許可処分が繰り返えされ、使用権が継続して与えられることを予定し、本件建物の設備等のため約八〇〇〇万円を支出し、同年一一月一八日頃から、市との覚書により許された営業の準備を始め、志木駅前志木ファイブビル所在の互助会結婚式場相談コーナーにおいて、結婚の挙式及び披露宴の仮予約受付けを開始し、互助会とニューサンパレスは、市に対し、目的を定める寄付をして本件建物の屋上庭園を充実させた。

(三)  ニューサンパレスは、結婚の挙式及び披露宴を総合してサービスを行ない、利用者はニューサンパレスに申込み、ニューサンパレスのサービスを受けて、挙式及び披露宴を行ない、式場には、ニューサンパレスの設備がされ、ニューサンパレスは本件建物以外では営業を行なつていない。

(四)  ニューサンパレスは、毎年三月、ほぼ同一内容の目的外使用許可申請をし、互助会と提携して集客に努め、互助会は、本件建物を「当社専属結婚式場ニューサンパレス」と宣伝し、ニューサンパレスは、志木市民会館とニューサンパレスが同一であるか、あるいは、本件建物がニューサンパレスの管理する会館であるかのような印象を与える宣伝をし、ニューサンパレスを利用した人及びその家族を会員として、ニューサンパレス旅行友の会を発足させ、会員の特典として、「志木市民会館のホール及び結婚式場の催物にご招待またはご優待」とし、「ニューサンパレス旅行友の会発足のご案内」と題するちらしには、「志木市民会館結婚式場」と、「ニューサンパレス」の文字より大きく印刷し、文面中にも「志木市民会館結婚式場ニューサンパレス」と記載されているため、志木市民会館とニューサンパレスの区別がつかず、市とニューサンパレス旅行友の会の関係は不明である。

(五)  市は、ニューサンパレスに対し、昭和五八年頃、一度、市民会館全体がニューサンパレスの結婚式場であると思われてしまうような宣伝は自粛するよう求めたが、右(四)の宣伝を止めさせるに足る手立てはとつておらず、他には市がニューサンパレスに対しその行為の是正を求めたことはない。

5  利用者の決定について

前記4の事実、〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができ、この認定に反する〈証拠〉は措信できず、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。

(一)  ニューサンパレスの係員を通じて本件建物の利用を申込む者は、式場及び披露宴室の全利用者のうち、九割にのぼり、式場及び披露宴室利用の日取りの相談はニューサンパレスが行ない、式場及び披露宴室を利用した場合に、ニューサンパレスを利用しなかつた例のないこと

(二)  本件建物の入口に置かれた案内板には「市民会館事務室ホール会議室受付」とのみ記載され、志木市民会館の利用台帳をニューサンパレスが保管していることが多く、本件建物の市職員事務室には、昭和五八年八月の工事まで、窓がなく、利用申込者にとつて、どこが市の受付け窓口か不明だつたこと

(三)  互助会は、志木ファイブビル所在の互助会結婚式場相談コーナーにおいて、式場検分前の段階で、本件建物における結婚の挙式及び披露宴につき、仮予約することを勧める、また、正式予約の際の予約金を右相談コーナーにおいて納められる旨の広告をし、市は、ニューサンパレスに対し、許可をした期間よりも先の時期の本件建物の開館予定日を知らせ、ニューサンパレスは、右開館予定日をもとに六輝予定表を作成した上、許可を受けた期間よりも先の時期について、あるいは、条例上式場及び披露宴室利用の受付開始時期は九月前であるのに、挙式及び披露宴の予約をその一年前から受付け(会議室としての利用は三か月前から)、利用者から予約金(昭和五七年には一万円)を受取り、市に対して、式場及び披露宴室の利用料を支払つているほか、オープン二周年記念特別企画の一つとして平日に限り披露宴の時間の延長をサービスすると広告したこと。

以上の事実によれば、実質上ニューサンパレスが、利用者を決定し、かつ、利用時間まで適宜決めているものということができる。そして、以上4及び右の事実によれば、被告市長は、本件建物におけるニューサンパレスによる結婚の挙式及び披露宴の事業の長期間継続した運営を予定して本件許可部分及び式場等を対象とする第一処分をなし、ニューサンパレスは、本件建物において右事業を行なつており、ニューサンパレスが自主的挙式及び披露宴に対し写真、美粧、貸衣裳、調理等の個々的サービスを行なうのではなく、一般の民間の結婚式場関係施設と同様に一括して引受けて総合的にサービスし、また、被告市長は、本件建物において、結婚の挙式及び披露宴の総合的なサービスがなされていることを容認して、第二次処分ないし第五次各処分及び本件処分をしたということができる。

6  以上の1ないし5の事実によれば、本件建物の目的は、市民の文化的向上と福祉の増進を図ることであつて、本件建物の用途の主たるものは結婚の挙式及び披露宴の事業であるというべきである。そして、〈証拠〉によれば、披露宴室と控室は、利用料金、利用時間の区分において全く別の形態で会議室としても提供されているが、式場は、式場としてのみの利用が予定されていると認められ、前記2ないし5及び後記7認定の事実によれば、式場、披露宴室はニューサンパレスの設備ないし設営がされた状態で、ニューサンパレスの総合的サービスの一環として利用されることのみが当初から予定されていたということができるから、本件建物の用途として、会議室を場所として提供することは含まれるが、市民その他の利用者に対し、人的サービスを抜きにした挙式、披露宴室及び控室の提供は含まれていないということができ、条例二条は、本件建物の用途につき、結婚の挙式及び披露宴の事業並びに会議室の場所の提供と規定していると限定して解釈すべきである。

7  被告らは、本件建物の用途は、場所の提供のみであり、建物の用途を決定するのは行政裁量である旨反論し、証人関根幸雄、同並木勝司、同吉原良一、同飯田幸一は本件建物の用途が場所の提供のみであることを前提とする供述をしているが、それ自体各証人の見解を述べるものにすぎず、被告市長が本件建物設置時、本件建物の用途を場所の提供と認識していた、あるいは、市議会が本件建物の用途を、場所の提供のみである旨決定したと認めるに足る証拠はない。

なお、〈証拠〉によれば、条例はその一八条において、

「(目的外使用)

市長は、地方自治法(昭和二二年法律第六七号)第二三八条の四第四項の規定に基づき、会館の一部を目的外に使用させることができる。

2 前項の規定により、使用の許可を受けた者は、別表第2に定める使用料を納付しなければならない。」

旨定め、別表第2は「結婚式関係施設及び喫茶室」と掲げていることが認められ、条例は結婚式関係施設及び喫茶室が目的外使用許可処分の対象となることを予定していたということができる。しかし、これをもつて、条例において本件建物の用途が、場所の提供に留まるものとされていたということはできない。すなわち、

(一)  結婚式関係施設及び喫茶室部分の使用を許すことが、直ちに人的サービスを市が行なわないことを意味するものということはできないこと

(二)  〈証拠〉によれば、被告小山は、本件建物建設前である昭和五四年八月二日の市議会全員協議会においては、本件建物の管理運営に関し、式場、写真、貸衣裳、調理は民間会社に請負わせる方法がよく、志木市民会館の結婚式場等の運営に関してはサンパレスが適当であると考える旨発言したが、本件建物の用途については言及せず、本件建物開館前に、市議会において、条例一八条一項の規定によりニューサンパレスに市民会館を使用させることになる旨説明したが、この際にも、本件建物の用途については言及せず、志木市民会館の開館後である昭和五七年三月一七日の市議会において、市総務部長たる関根幸雄は、市議会議員たる原告の質問に対し、「結婚式場の運営もしておりますので」「市民会館の設置については、結婚式場を運営するということも主目的で」と答弁し、原告の「目的そのものの使用許可ではないか」との質問に対し、質問に対応する答弁をせず、同年六月一六日の市議会において、被告小山は、原告から、同日朝日新聞に自治省行政課の見解として「施設の配置や条例の内容にもよるが、別棟で式場をつくり、志木市のように、条例の中に結婚式場および披露宴室の利用に関する業務を行う、と明示してあるなら、目的外とするには無理があるかもしれない。」等と掲載されたことを指摘された上で、志木市民会館の設置構想は何かという旨の質問されても、「開館以来喜ばれている」とだけ答弁し、前記関根は原告の「目的そのものの使用許可ではないか」との質問に対し、条例の二条と一八条は抵触しない旨及び市の職員が志木市民会館を管理をし、その事業の一部として、ニューサンパレスが結婚式場の運営を担当している旨答えるのみであつたことが認められ、本件全証拠によつても、昭和五七年八月二八日になされた本件監査請求に対する監査結果以前には、本件建物の用途が場所の提供のみである旨が、市または被告市長の側から説明された事実が窺えず、却つて、右事実によれば、本件建物は、結婚の挙式及び披露宴の事業が営まれることが予定されて設置され、市において右事業が営まれていると認識されていたと認められる。よつて、市議会において、本件建物の用途を、式場、披露宴室及び会議室の提供のみであると認識して別表第2を定めたと認定することは出来ない。

8  本件処分の内容について

〈証拠〉によれば、被告市長の作成した第一次ないし第四次各処分の各行政財産使用許可書には、

「第四条 使用者は、使用財産を次に指定する目的及び方法により使用しなければならない。

使用目的 結婚式場、披露宴、宴会、喫茶室等に関する一切の事業

使用方法 志木市と使用者との細目協定による」

との定めがなされており、第一次ないし第四次各処分の各細目協定書には、ニューサンパレスの営業内容として

「挙式及び披露宴等の受付および相談

挙式の執行

喫茶室の設置及び披露宴の運営

引出物、貸衣裳、美粧、着付、写真、花

その他上記に関する一切の業務」と定められていることが認められる。

右事実と前記5の被告市長はニューサンパレスの本件建物における前記営業活動を容認した上、第二次ないし第五次各処分及び本件処分をしているといえることからすれば、本件各処分は、本件建物において、ニューサンパレスが利用者の決定を含み、総合的サービスを行なうというという意味において、結婚の挙式及び披露宴の事業を行なうことをその目的とするものであるということができる。

以上のとおり、本件建物の用途は、結婚の挙式及び披露宴の事業並びに会議室の場所の提供であるところ、本件各処分は、ニューサンパレスがこれと同一の事業を行なうため右用途に必要な施設である本件許可部分及び式場等を使用することを目的とするものであるから、本件各処分は、本件建物の用途を妨げる、法二三八条の四第四項の規定に違反するものである。

よつて、その余の事実について検討するまでもなく本件処分は違法であり、被告市長に対する主位的請求は理由がある。

(被告小山に対する請求について)

五1  被告小山が、被告市長として、本件各処分をしたことは、当事者間に争いがない。

2  法二四三条の二は、同条一項所定の職員の行為について、同条三項に規定する賠償命令以外の手続による責任追及を排除するものではなく、しかも、同条一項所定の職員には普通地方公共団体の長は含まれないと解するのが相当である(最高裁判所昭和五八年(行ツ)第一三二号昭和六一年二月二七日第一小法廷判決)から、被告小山に対して、法二四二条の二第一項第四号に基づき、損害賠償を請求することが許される。

3  監査請求前置について

原告が本件監査請求を行なつたことは前記三2のとおりであるところ、第一次処分は、昭和五五年四月一日付でなされ、昭和五六年三月末日にはそれ自体の効力がなくなつているのではあるが、前記三2に述べたように、その実体についてみれば、ほぼ同一内容の以後の本件各処分の効力が継続している限り被告市長がニューサンパレスに対して本件許可部分及び式場等の使用を認める管理行為は、終つていないということができ、第一次処分は右管理行為の一部をなすものであるから、第一次処分について、法二四二条二項本文の期間を徒過したものということはできず、第二次処分も同様であるから、原告の被告小山に対する原告の主張一〇1の主位的損害賠償請求は、適法な監査請求を経ているということができ、また、第三次(昭和五七年度)処分は、本件監査請求がなされたときに効力を有した処分であり、第四次(昭和五八年度)及び第五次(昭和五九年度)各処分は、前記三2において本件処分について説示したところと同様に、監査請求を経ている処分であるといえるから、原告の被告小山に対する原告の主張一〇2の予備的損害賠償請求についても、監査請求を経ているということができる。

六本件各処分は、前記四のとおり、違法である。

七損害の一 主位的損害賠償請求・第一次及び第二次各処分により市の被つた損害について

1  第一次及び第二次各処分によつて、市の被つた損害について検討するにあたつては、右各処分がなされなかつた場合となされた場合とを比較すべきであるから、右各処分がなかつたことを仮定して検討する。

(一) 前記二1のとおり、本件建物は、条例に基づき設置された志木市民会館の一部であるから、行政財産であり、普通財産として賃貸することは想定できず、また、市は何人に対しても本件建物全体または本件許可部分を貸すことはできない(法二三八条の四第一項、第二項)から、本件建物を賃貸した場合の賃料相当額を第一次及び第二次各処分がなされなかつた場合の市の得べかりし利益ということはできない。

原告は、本件各処分は、実質的には被告市長が、ニューサンパレスに対して、本件建物全体を普通財産と同様に貸付けるものであるとして、本件建物を普通財産として賃貸した場合の賃料とニューサンパレスが支払つた使用料との差額を損害の一部として主張するが、右のとおり、本件建物を貸すことはできないのであるから、これを前提として、市の得べかりし利益を検討することはできない。

(二)  市が、第一次及び第二次各処分をなさずに、本件建物において、自ら結婚の挙式及び披露宴の事業を行なう場合は、事業による収益と費用が市に帰属して、その差額が市の利益または損失となるが、もともと、公の施設たる本件建物は、市民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設(法二四四条一項)であつて、利益を挙げることは必ずしも要請されていないものであり、また、そもそも、市が本件建物の運営をいかに図るかは不明である。

2  また、原告は、原告主張一〇1(二)記載の管理運営費用の支出を市の損害の一部分として主張するが、仮に右管理運営費が支出され、右支出がもつぱらニューサンパレスのためであつたとしても、原告の主張によつても、右支出は本件建物の管理運営費として支出されたものであるから、右支出または右支出分をニューサンパレスに負担させないことが、違法ないし不当であるか否かは格別、右支出または右支出分をニューサンパレスに負担させないことと第一次及び第二次各処分とは因果関係がない。

八損害の二 予備的損害賠償請求・第三次ないし第五次各処分により市の被つた損害について

原告は、昭和五七年七月一日から昭和五九年六月三〇日までの間のニューサンパレスの利益と同額を市の被つた損害として主張するが、前記七1(二)のとおり、市は本件建物により、利益を挙げることは要請されていないのであるから、市が営利を目的とするニューサンパレスの獲得した利益と同額の利益を獲得することが可能であつたということはできず、ニューサンパレスの獲得した利益と市の被つた損害との間には関連性がない。

以上のとおり、本件各処分には、市が本件許可部分を自由に運用することを妨げられる等の損害を被るおそれがあつたが、本件各処分により、市の被つた損害について、的確な主張立証はないから、その余の事実について判断するまでもなく、被告小山に対する請求は理由がない。

九よつて、原告の請求のうち、被告市長に対する主位的請求は理由があるからこれを認容し、被告小山に対する請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官高山 晨 裁判官松井賢徳 裁判官原 道子)

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